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“現代最高の指揮者”の印象を強めたパーヴォ・ヤルヴィのブラームス・チクルス

現代最高の指揮者。

その評価は変わるどころか、更に強まった。

パーヴォ・ヤルヴィ指揮、ドイツ・カンマーフィルハーモニーブレーメンの来日公演。

 

パーヴォ・ヤルヴィは、エストニア出身の現在51歳の指揮者。芸術監督を務めるドイツ・カンマーフィルハーモニーブレーメンベートーヴェン交響曲全曲演奏で、世界的な評価を高め、今回はブラームス交響曲全曲演奏会。所用あり、聴けたのは、2014年12月10日(水)の初日と、15日(日)の最終日。

■初日:時代の最先端を突っ走る、未来のブラームス交響曲第1番

初日は、ラルス・フォークトソリストに迎えてのピアノ協奏曲第1番と、交響曲第1番。協奏曲はこちらの期待が高すぎたか、十分充実している演奏なものの、いささか物足りず。ところどころでリズムが乱れたり、音の色がピアノとオケで全くバラバラだったりと、粗が気になってしまう。前月に聴いたばかりのヤンソンス指揮バイエルン放送響とツィメルマンによる同曲の見事な演奏との比較になってしまった感もある。

しかし、後半の交響曲第1番は、前半は何だったのだ?と言うくらい、全くもって見違える名演だった。

パーヴォは、彼を迎える拍手がまだ終わらないうちに指揮棒を力強く振り下ろす。
かなり速めのテンポで、心臓にくさびを打つかの如く、強烈なティンパニが打ち鳴らされる(しかも、右手一本で叩いていた?)。旋律が生き物のように有機的に絡み交錯する。この時点でもう古色蒼然とした“ブラ1”の姿はない。

後はもうなされるがままというか、ポルタメント的表現まで出てくるなど、一小節毎に驚きがあり、かなりアヴァンギャルド

各楽器の卓越して魅力的なソロも流石だが、パーヴォの、一度ブラ1を完全に解体し、21世紀の今の目で見直した視点が強烈。例えば料理で言うなら、全く想像もしなかった方法で絶品の料理を作り出す感じに近い。

セピア色の古きドイツ王道作曲家から埃や煤を取り除き、原色のリアルで情熱的な聴いたことのない鮮烈なブラームスを今の時代に蘇生させたのだ。

それは正に、時代の最先端をバリバリ突き破るようだった。受け容れられない人もいるかもしれない。

ただ、時代は彼の切り拓く荒野の後を未来への道とするだろう。

歴史を聴いた。


■最終日:キレッキレの二重協奏曲と、精悍と極上ppの変幻自在パーヴォ

最終日は、悲劇的序曲、ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲、交響曲第4番。
悲劇的序曲はこれまた充実の演奏。このコンビだから充実した演奏くらいでは満足できなくなってしまうのだが、普通に考えれば、ドラマティックで深さも歌もあり引き締まった、文句のない見事な演奏だ。

ただし、その印象が霞むのは、次のドッペルコンチェルトがあまりに凄演だったからだ。ヴァイオリンの名手クリスティアンと、このオーケストラの首席チェロ奏者でもあるターニャのテツラフ兄妹が登場。これが心底強烈だった。キレッキレだ。

クリスティアンの、今にもヴァイオリン自体が語るような勢いと説得力ある演奏に、ターニャの、デュプレにも似た細い腕ながらも、低音から高音まで澱みなく鳴るチェロにノックアウト。美しいとかの前に、ひたすらカッコよい。ロックに近いと言えるかもしれない。シビれた演奏だった。また、兄のことをよく見る、兄を慕うようなターニャの視線が印象的だった。素晴らしい兄妹だ。

パーヴォとオケもそのキレッキレの二人に上手く合わせ、巧みにドラマを作り盛り上げる。方向性も実際のアンサンブルもよく合った素晴らしい協奏曲。兄妹がアンコールで演奏した、コダーイの二重奏曲も爽快で洗練された未来的演奏で、感動をより深いものにした。

後半の交響曲第4番は、割とオーソドックスに進んだ。ただ細部までよく鳴らし、味わい尽くすような演奏だなぁと思っていたら、とんでもなかった。1楽章の結尾でハードにアッチェレランド。は、速い。。! 振り落とされるかと思った。。

このコンビのしなやかな筋肉のような表現は今のところ敵無しな印象。3楽章のリズムのエッヂが立った引き締まった演奏も凝縮感があり、今まで聴いた中で最高の3楽章だったと思う。

4楽章のパッサカリアも案の定というかテンポプリモになる第16変奏からしなやかな筋肉のような精悍な音楽が炸裂する。それはもう、怖いくらいだ。プロのボクサーは数cmあればもう相手を倒せると聞いたことがあるが、このコンビは、それに近い。一瞬で強烈なクレッシェンドや高速なのに乱れぬフレージング、アーティキュレーションで聴衆をノックアウトできるのだ。しかも、それが力任せの喧嘩のようなボクシングではない。知的に構成された中でとんでもないパンチを炸裂させる。

しかも、そのワンパターンだけで攻め続けるのか、というと、そうではない。アンコールの3曲目で聴かせたシベリウス「悲しきワルツ」での、気の遠くなるような極上のppと織り成すレースのような表現だってある。変幻自在。

とにかく刺激的で創造的で幸福な演奏だった。

2015年9月にはなんとNHK交響楽団首席指揮者に就任。今後の活躍が楽しみと同時に彼の演奏に触れられる機会が増えそうで嬉しいことだ。

また、あのブラームスを今すぐまた聴きたい、と中毒になった方には、今回の来日に合わせて、アンコールで演奏されていたブラームスハンガリー舞曲を収めた限定の来日記念CDが処方されていますので、どうぞ。

 
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