ショパンコンクール最新女王アヴデーエワの、心奪われるやわらかさ
2015年は5年毎に開催されるショパン国際コンクールの開催年。10月にはまた新たなスターが誕生することになるだろう。では、現在最新の優勝者、つまり前回大会の優勝者はと言うと、ロシア出身のユリアンナ・アヴデーエワだ。アルゲリッチ以来45年振りの女性優勝者と言うこともあり、大きな話題となった。
そんな彼女が本格的なCDデビューを行ったのが、ショパンの24の前奏曲と、シューベルトの3つのピアノ曲、そして、プロコフィエフのピアノ・ソナタ第7番を収録したなんと2枚組の大作。
そしてそれを受けるカタチで行われたショパンの24の前奏曲全曲演奏を含む来日ツアーがあり、出かけた(2014年11月14日)。
全編を通して、バネがついているかのように跳ねる健康的なリズムも快いが、ともかく稀有だと感動したのが、思わず溜息が出るような美しすぎる音。度々聴かせる、触れば壊れそうなどこまでもやわらかい音を、忘れることはないだろう。
もちろん、万事やわらかな演奏というわけではない。タッチの種類はとても豊かで、まず1曲目のモーツァルトのピアノ・ソナタ第6番でその見事なパレットを見せてくれた。2楽章で聴かせてくれた和音のレガートも印象的だった。
続くリストでは、難曲を毅然と美しく、タッチの違いを駆使し、ドラマ性にも申し分なく聴かせる。「ヴェルディ『アイーダ』より 神前の踊りと終幕の二重唱」はオリエンタルな風が吹くようだったし、「巡礼の年第2年『イタリア』から ダンテを読んで-ソナタ風幻想曲」の三全音も美しい。
メインであるショパンの24の前奏曲は、このかけがえのない詩を慈しむように奏でていく。この曲集は、病気の療養も兼ねてマヨルカ島に恋人のジョルジュ・サンドと共に居候した際に完成されたそうだが、例えば、有名な15番「雨だれ」にしても、当然悲壮感は皆無だ。雨だれもしとしと、というより、雨滴は光を浴びて輝くよう。だが、一転して転調後は、息の長い深い世界観が出現し心を奪われる。美しさと深さ。終始そんな感じなのだ。
ヒストリカル・ピアノの演奏なども積極的に行い、意欲的な活動を続けるアヴデーエワ。ショパンコンクール覇者らしい彼女の活躍は、今年新たなスターが誕生しても、変わらず続き、また、人を感動させ続けるだろう。
※アヴデーエワは2015年2~3月にトゥガン・ソヒエフ指揮トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団 と
更に、2015年11月に同じくトゥガン・ソヒエフとベルリン・ドイツ交響楽団との公演あり。
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