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ブロンフマン×サロネン・フィルハーモニア。ビロードに水晶を転がせる絶品の協奏曲

AppleのCMに登場し、その知的な音楽性がクールに広まった世界的指揮者・作曲家のエサ=ペッカ・サロネン


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彼が首席指揮者を務め、共に「The orchestra(オーケストラ)」というiPadアプリも開発したフィルハーモニア管弦楽団との来日公演へ行った(2015年3月6日)。

オーケストラ

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  • Touchpress Limited
  • ミュージック
  • ¥1,400

 サロネンは個人的にとても好きな指揮者だ。1998年に同コンビで来日して振った現代音楽作曲家ジェルジ・リゲティの『アトモスフェール』と『ロンターノ』が、さすが自身が作曲家でもある現代音楽のスペシャリスト的演奏で、気が遠くなりそうな美しさに衝撃を受けたことを今も思い出す。


今回のこの日の曲目は、前半がイェフィム・ブロンフマンを迎えてのチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番。

サロネンが有名な堂々たる序奏の主題を豪華に鳴らす。フィルハーモニア管は弦楽器が極上で、分厚く温かみのある音。サロネンは細かく表情付けし、オケがそれに十二分に応える。

そしていよいよピアノ登場だが、ブロンフマン、凄まじかった! 巨体から繰り出される豪快な音は想像つくのだが、オケと融合する場面などはとにかく抑えて音を美味く溶け合わせる。

 

最初のカデンツァ後半(48小節目)において、フォルテの低音が終わった後、ペダルを踏みっぱなしにし、高音を別のレイヤーでなでるような優しいタッチで被せてきた時の音の対比はゾクゾクさせる効果。

 

終始こんな感じなのだ。はっきりと斬新、というわけではないのだが、ちょっとしたアイデアや解釈で、全く聴いたことのないチャイコだった。サロネンと音のイメージが一致している印象で、サロネンがエレガントなフィルハーモニアを鳴らす、美しいビロードのオケの絨毯の上をブロンフマンが水晶の玉を転がせるような、そんな軌跡のような演奏だった。

曲が終わると、客席からはブラボーが飛び交い、アンコールに応じたブロンフマンだが、始まった瞬間、またしても驚愕した。なんと、プロコフィエフの戦争ソナタ第7番の終楽章! アンコールにこんなメイン曲が聴けるなんて! しかもこれがまた絶品。強打だけで進めるのではなく、完璧なテクニックで疾走感もって進むが、クレッシェンド・デクレッシェンドの動きがとにかくなめらか。しなやかな鞭のように音楽が動く。息苦しいと思ったら、思わず呼吸を止めて聴き入ってしまっていた自分に気が付いた。

 

これまた大喝采となったわけだが、更にもう1曲アンコールが! 今度は打って変わってショパンの練習曲10-8。分散和音が高低に展開するこの曲を何の苦労もなく爽快に優しく奏でるブロンフマン。最後のアルペジオのやわらかでチャーミングなこと! 絶品すぎるデザート=アンコールでした。

休憩時に、音楽ジャーナリストの渡辺謙太郎さんとばったりお会いし、お互い「すごい演奏でしたね!」と大興奮。演奏の感動をこう共有できるのは本当に楽しいものだ。

後半は、サロネンがお得意のストラヴィンスキーから『火の鳥』。明快に精緻に作品の色合いをくっきり見せて演奏していく。が、面白いと思ったのが、無調的になる部分の響かせ方だ。バランスを持って鳴らさせるため、音が濁るのではなく、それぞれが水平にキレイに並び、全体として神秘的に美しく響かせる。それは、この先にリゲティたちがいることを感じさせるものだった。

有名なカスチェイの手下の踊りは快速テンポだが、その前のカスチェイが登場した際の盛り上がり方が凄みあり。

そういえばホルンが活躍する箇所が多々あるが、とても上手だなぁ、と唸ったが、そうだ、よくよく考えれば、これはホルンの名手デニス・ブレインを擁したフィルハーモニア管なのだった(ナイジェル・ブラック?)。

あと、その他、バンダがRC席あたりにいたのだが、サロネンはステージに背を向けてバンドに指揮する場面も。ファンとしてはそんなことも嬉しかったり(笑)。

大団円のとき、金管がベルアップし、音圧を感じるような、とてつもない音量にも驚く。いやぁ、面白かった。

そしてアンコールは、サロネンの紹介により、ラヴェルの『マ・メール・ロワ』から「妖精の園」。弦をきれいに織り成す極上のデザート。楽団員が捌ける中、拍手に応じて再度姿を見せるサロネン。そこでも、さっ、とお辞儀をし、身軽にバックステージに戻る。これがサロネン。クール!

 

この公演に先立ち、3/3にミューザ川崎さんにて、フィルハーモニア管のデジタル部門担当者による「音楽とテクノロジー」の取り組みについてのセミナーが行われ伺ったが、そこで担当者が何度も言っていて印象的だったのが、とにかくマエストロ・サロネンが協力的である、ということ。本当に素晴らしいパートナーなのだと思う。そんな中からアプリが生まれ、ホールのない地方でも演奏できる移動屋外ステージができ、子どもでも演奏できるセンサー埋め込みの楽器ができているのだ。

しかも、彼らのアイデアと実行力ある活動は、今後も時代の最先端を突き進むことだろう。