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アマチュアの女子高生ブラバンによる『熱血!ブラバン少女』が大ヒットした理由

現役女子高生ブラバンによるアルバム『熱血!ブラバン少女』が大賞!

熱血!ブラバン少女

熱血!ブラバン少女』というアルバムが2015年の日本ゴールドディスク大賞のクラシック・オブ・ザ・イヤーを獲り、話題となりました。

CD「熱血!ブラバン少女」年間1位に 大ヒットで快挙 (朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース


このアルバムはなんとプロによる演奏ではなく、全日本吹奏楽コンクール全日本マーチングコンテストで多数受賞してきた名門中の名門である、精華女子高等学校吹奏楽部(福岡)が演奏したもので、前代未聞の快挙。

朝日新聞デジタル:全日本吹奏楽コンクール 全国大会プログラム・結果(高校) - 教育

 

当賞は、アルバムの売り上げ数によりますので、実質的にクラシックで2014年に一番売れたアルバム、となります。

過去の受賞ディスクを見ると、小澤征爾(指揮)やヨーヨー・マ(チェロ)など世界的な音楽家の名が挙がりますが、それ以外は、フジ子・ヘミング辻井伸行のだめオーケストラ、昨年は海上自衛隊東京音楽隊(ソプラノ:三宅由佳莉)など、お茶の間でも話題となったアルバムが多いことに気付きます。

小澤征爾も有名なウィーン・フィルのニューイヤーコンサートに登場した際のCDだったり、ヨーヨー・マサントリーのCMに登場し、また歌舞伎の坂東玉三郎と共演した映画が公開されるなど大変話題になっていた時期に受賞ということで、やはり社会一般に広く認知されたアルバムが受賞してきたと言えそうです。


また、特筆すべきは、2008年。なんと『ブラバン!甲子園』という今回と同じくブラスバンドのCDが大賞だったのです。ただし、これは東京佼成ウインドオーケストラというプロによる演奏。

今回は、名門とは言え、高校生というアマチュアの演奏が大賞で、それが大快挙なことに変わりはありませんが、この数年でブラスバンドが2度大賞を獲ったということで、そもそもブラスバンドのアルバムは人気が高いのでしょうか?

今、ブラバン・ブーム?

まず、いきなりなのですが、クラシック音楽のアルバムの売上におけるブラスバンド吹奏楽関係の割合は決して高いものではありません。正確な数字ではないですが、関係者の話を合わせると、大体1割程度ではないかと思われます。

では、なぜそこから年間で最も売れたアルバムが登場したのでしょう? ここ近年のブラスバンド関連の動きから、探ってみましょう。

・2004年6月~ 日本テレビ系列のTV番組『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』にて「日本列島 吹奏楽の旅」コーナー開始
・2004年9月~ 映画『スウィングガールズ』公開(2001年公開『ウォーターボーイズ』をヒットさせた矢口史靖監督による次作)
・2005年『スウィングガールズ オリジナル サウンドトラック』が日本ゴールドディスク大賞サウンドトラックアルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞
・2006年、津原泰水が発表した小説『ブラバン』がベストセラーに
・2007年6月 前述の『ブラバン!甲子園』発売。大ヒット。「ブラバン・ブーム」と言われ始める
・2008年 『ブラバン!甲子園』が日本ゴールドディスク大賞クラシック・オブ・ザ・イヤーを受賞
・2008年3月~ 映画『ブラブラバンバン』公開(原作は1999~2000年にかけて連載された柏木ハルコによる漫画)
・2010年 「日本列島 吹奏楽の旅2010」(その後、2013年まで毎年放送)
・2013年8月、福岡を拠点に活動するバンド『CHEESE CAKE』のメンバーがブラバン経験者だったことから同じく福岡の精華女子高等学校吹奏楽部にライヴの共演を依頼

CHEESE CAKE 『CHEESE CAKE×精華女子吹奏楽"ブラバンド"「音の無い世界のうさぎ」』 - YouTube

・2013年10月 精華女子高等学校吹奏楽部、全日本吹奏楽コンクール金賞受賞(7回連続9回目、18回出場)
・2013年11月 精華女子高等学校吹奏楽部、全日本マーチングコンテスト金賞受賞(15回連続15回目、15回出場)
・2014年2月12日 上記『CHEESE CAKE』との共演に感銘を受けたレコード会社の担当スタッフが話を持ちかけ『熱血!ブラバン少女』リリース
・2014年2月24日 オリコン週間チャートクラシック部門にて同アルバムが初登場1位を記録(5週連続)
・2014年12月24日 ヒットを受けて第2弾の『挑戦!ブラバン少女』リリース
・2015年 『熱血!ブラバン少女』が日本ゴールドディスク大賞クラシック・オブ・ザ・イヤーを受賞

といった感じです。

なお『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』では、当初「部活動の旅」だったものの、第1回の吹奏楽部が面白かったため、司会の所ジョージの独断で「吹奏楽の旅」に企画変更されたという経緯が。それゆえ、もしかしたら今のブラバン・ブームのきっかけの一つは所さんかもしれない?! ともあれ、この番組がブラスバンド精華女子高等学校吹奏楽部・マーチングの素晴らしさを広めたのは大きかったと思われます。

また、日本では戦後に学校教育において注目され全国に広まり、一般社団法人 全日本吹奏楽連盟の加盟団体数は、2001年が13516団体で、2013年10月1日の時点で14265団体。日本の吹奏楽人口は100万を超え、世界的に見ても吹奏楽大国なのだそうです。

ということで、そもそもブラバン大国の下地があった上で、小説や映画の題材となり、TVで紹介され、福岡というキーワードで精華女子がプロデューサーの目に留まり、更に地盤が強化されたところで今回の精華女子高校のデビューとなったわけです。

『熱血!ブラバン少女』を買ったのは誰?

では、このアルバムを買ったのは誰なのでしょう? CDショップの方に尋ねてみました。

「発売後すぐスポーツ紙に大きく出て、しばらくは主におじさま方がお買い上げになっていました。『新聞に出ていた話題のCD下さい』という感じです。めざましテレビなどTVでアルバムが紹介されたことも良かったと思いますが『新聞を見て』という問い合わせの方が多かったような気がします」(山野楽器 銀座本店 クラシック担当:松永真実子さん)

なんと、最初に動いたのは中年男性とは!

「その後は『昔、吹奏楽やっていました』という感じのサラリーマンや現役で吹奏楽やっている感じの学生さん、その親御さんやクラシックのCDを買うついでに買っている感じの方もいらっしゃいました」(同、松永さん)

吹奏楽を現役で演奏している層のほか、かつてやっていた中年層が、懐かしいと感じて買っているようです。しかし、一番売り上げを支えているのは、吹奏楽やクラシックにあまり縁のない中高年が、頑張っている若者の姿に感動して買う、吹奏楽をしている子供や孫に、その姿を重ねて感動する、といった層だと思います」(HMV クラシック担当:久保昭さん)

なるほど、これって高校野球人気と全く一緒ですね。プロ並みとは言え、アマチュアの選手や奏者が努力を重ねて全力を尽くす姿に感動し応援する。TVで、彼女たちが藤重佳久顧問による熱血指導の下、土日も練習し、定期演奏会の前に至っては朝7時から21時までというハードな練習をこなす姿と演奏に、心動かされた方も多かったでしょう。

高校野球の応援でもブラスバンドが活躍するわけで、この両者は日本に根付いた、感動する・応援したくなる若者の姿の双璧なのかもしれません。

なお、ブラスバンド関係の他のCDはどうなのでしょう?

「最近、内容の良いアルバムのリリースが増えており、そこそこ売れていますが、そこまで売れているという印象はありません」(同、久保さん)

「他のブラスバンドのCDの売上は、それほど変わっていません。以前からと同じように吹奏楽好きの方が買っている印象です」(同、松永さん)

とのこと。

やはり今回は、『ブラバン』という日本人にとって人気のテーマに、更にその象徴である『高校生』、しかも全国トップの実力ある学生、更に言えば、スポーツ紙に載ったことを考えると『女子高生』という、これまた日本で根強いキーワードが揃い、話題が話題を呼んだことがヒットの要因に思えます。

技術的には遥かに上なプロ野球があるのに高校野球の人気が磐石なように、神業で精神性の深い演奏を聴かせるプロのクラシックの演奏家がいる一方、アマチュアの高校生の演奏がもてはやされる。結局のところ、人が感動し、触れたくなるものの価値は一つではなく、完璧さや技術の高さに感銘を受ける一方、そこに至ろうとするドラマや成長の記録にも胸を熱くする、ということでしょう。その価値観自体、優劣の問題ではないですよね。


ということで、精華女子高等学校吹奏楽部の皆様、本当におめでとうございます。様々な要因があれ、何より、歴代の部の皆様の耐えざる努力と実力が最大のヒット要因です。素晴らしい演奏をありがとうございました。

そして、そのアルバムを買った・これから買おうという方が、この機会に他のクラシック音楽の演奏も聴いて、更なる感動を得られれば、それはとても素敵なことだと、一クラシックファンとして、思うのです。

 

熱血!ブラバン少女

熱血!ブラバン少女

 

 2014年12月に発売された第2弾↓

挑戦! ブラバン少女

挑戦! ブラバン少女