イタリアらしい明るい響きで快進撃続けるパッパーノ&サンタ・チェチーリア国立管

イタリア×クラシック音楽、と言えば、なんと言ってもイタリア・オペラだ。オペラは16世紀末にイタリアはフィレンツェで生まれ、ロッシーニヴェルディプッチーニなどによる今なお世界中のオペラハウスでメインで上演される作品を生み出し、ミラノ・スカラ座を筆頭にイタリア各地の街で日々イタリア・オペラが上演されている。

そんな中で、イタリアの“オーケストラ”として気を吐くのが、ローマ・サンタ・チェチーリア国立管弦楽団だ。交響曲管弦楽曲の演奏をメインにしたイタリア最古のシンフォニー・オーケストラと言われ、歴史的にはトスカニーニフルトヴェングラーカラヤンバーンスタインなど名立たるマエストロが指揮台に立ち、1958年に指揮を振った朝比奈隆が「名にし負うサンタチェチリアの弦が快く響く」と回想するなど、古くから名オケとして知られてきた。そんな名門の音楽監督に2005年から就任しているのが、イタリア人でありながらイギリス生まれアメリカ育ちのインターナショナルな指揮者アントニオ・パッパーノだ。

このコンビでの3回目の来日ツアーが2014年11月に行われ、11日サントリーホールでの公演を聴いた。

前プロ(1曲目)は、ロッシーニのオペラ「セビリアの理髪師」序曲。これが最初から華やか。シンフォニー・オーケストラとは言え、やはりイタリアの血というか、オペラがこれから始まりそうなワクワク感に満ちた演奏。十分な疾走感で盛り上げるロッシーニ・クレッシェンド(長いクレッシェンド)からの軽快な金管の歓喜の歌い上げ。正にこの日全体の序曲といった感じ。

そして、中プロ(2曲目)のブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番。ソリストには、諏訪内晶子を迎える。彼女にとってこの曲は、史上最年少でチャイコフスキー国際コンクールで優勝し、アメリカに学び充電した後でフィリップスからCDデビューした際の曲。それは若い情熱に満ち溢れた秀演だった。それから18年経ったこの日の演奏は、ゆったり目のテンポの中、旋律に満ちた人気協奏曲をたっぷりと丁寧に歌っていく。彼女の持ち前の艶やかさを堪能させてくれ、またオーケストラもソリストを盛り立てる、素晴らしい演奏だった。

後半のメイン(3曲目)は、巧みなオーケストレーションアルプスの登山を描写した華やかなリヒャルト・シュトラウスによる『アルプス交響曲』。冒頭の夜の第1音が出た瞬間「あれ?」と思った。というのもppの指示のはずが割と大きめで、pくらいに感じたからだ。が、これは意図的だったようだ。というのも、下降する音階の連なりが明瞭に聴こえ、それにより、日の出前の蒼深く湿り気ある大気の雰囲気がとても感じられたからだ。この部分の美しさはこの日の中でも特筆すべき忘れがたいものだった。以降、日が差し、アルプス登山が始まり、滝が現れ、登頂し、雨が降ってきて、下山するわけだが、ところどころの旋律とまで言えない音の要素要素までをオケは歌い、正にオーケストラによるオペラのよう。パッパーノの持ち前の明るさとオケの個性が上手く噛み合っていて、このコンビが蜜月にあることを窺わせる演奏だった。

登頂時の明るいパワー全快さも凄かったが、翌日もまた同じ演目を演奏すると気付き、彼らのタフさにまた驚いた。歌に満ち、パワーもある彼らの快進撃は今後も続くだろう。